2009/12/20

追憶のかけら

 本作が単行本として発売された当初から気にはなっていたものの,作中作の部分の旧仮名遣いに気乗りしなかったこともあって,購入することは見送っていた.そもそも本というものとの出会いは一期一会であって,書店における出版物の代謝回転が速まっている最近の出版事情を加味して考えると,一度見逃した本を読むことができる可能性はあまり高くない.そういう考えをどこかで見て,共感したものだけれども,この本に関しては文庫本を再度手に取る機会があって本当によかったと思う.

 本作の主人公は国文学分野の研究者で,彼のもとに持ち込まれたとある作家の手記を巡る出来事が物語の主軸となる.確かに作中作となる,この手記の部分がハードルとなって,実のところ数ヶ月読むのを中断していたのだけれども,その部分を乗り越える価値はあると思う.もちろんその部分がつまらないということはないし,その後の謎解きのキィとなることもあるので読み飛ばすのはおすすめしない.著者である貫井徳郎は,処女作である(あれ,処女作ではなかったかもしれない)「慟哭」のときからすばらしい作家だとは思っていたけれども,本作であらためてその才能を実感することになった.貫井の(おそらくは)“売り”であるどんでん返しがきれいに決まる結末は見事の一言で,本当にすばらしい作品だった.


追憶のかけら (文春文庫)追憶のかけら (文春文庫)

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